汗がベトベトベトナムざんまい

（２０１４年１０月５日）ナゾの屋台
　
たぶん営業許可など必要のないこの国ではカゴが一つあれば商売ができます。朝になると決まってホテルの前の道端に傘をかぶったおばさんが露店を出すのですが、ただカゴを前に置いてしゃがんでいるだけです。カゴの中には葉っぱでくるんだチマキのような見るからに粗末そうな食べ物が申し訳程度に入っていて、周囲はフォーだのバインミーだのケバブだのの店や屋台が賑わっているのに、そのおばさんときたら不愛想を決め込んでいて、きっと少しでも生活費のタシにしたくて見よう見まねで始めているんだろうと気の毒に思っていたら、少し見ている間にお客が１人また１人とそのチマキを大事そうに買っていきます。そうなると急にそのおばさんが伝説のチマキ職人に見えてきて、ベトナム食文化の奥深さに気付かされるのでした。と思えば、観光地の旧市街を歩いていたら、やっぱり笠をかぶって天秤に果物をいっぱいにした、ヒトなつっこいおばさんが、気さくに笠と天秤を貸してくれて記念写真を撮らせてくれるのですが、別れ際、キッチリ１ドルを請求されたりして、これまた食文化のキビシサを思い知らされたりします。とにかく、ベトナムでは車やバイクがブンブン通り過ぎる街頭でも歩道ぐらいのスペースがあれば、たちまち街路樹の間に青いビニールシートが結ばれて屋根となり、おフロ場で使うようなプラスチック製の小さいイスとテーブルが並べられ、片隅に小さな商品ケースとフォーを茹でる寸胴鍋を置いたなら、あっというまに素敵なカフェの完成です。火は一般家庭でも主流の練炭、電気は車のバッテリーで、なんなら、近くの電線を拝借しているケースもあります。近代的なお洒落なカフェも増える一方で、こういった露店がストリートに点在し、いっこうに衰退する気配がないのは、学園祭のダシモノ感覚とか秘密基地感覚とかの効果で妙に心を和ませるからでしょうか。
そんな露店天国で、暑い夏も寒い冬も夜になるとどこからともなく現れるナゾの屋台があります。自転車の前にリヤカーみたいな大きな箱がくっついたもので、その箱の上にはとうもろこしが鍋の中でアツアツに茹でられているのでした。それを勉強机風の蛍光灯が煌々と照らていて、今ではどうやって湯を沸かしているのかとか、どうやって蛍光灯をつけているのかとか何となく察しがつきますが、初めて見た時はその風貌に度肝を抜かれたものでした。とうもろこしは国産なのか小ぶりで白っぽく粒も固そうです。茹で汁は白濁していてちょっと屋台の皿洗いの溜水を連想させます。いったいどんな味がするのか気にはなるもののソウル感がハンパないので遠目からしか見ることができないのでした。

（２０１４年４月３０日）ベトナムテャマスィー（魂）ザ・電柱
　
どういうわけか日本人、特に若い女性に人気のベトナムですが、その理由を自分なりに推測するに、東南アジア特有の雑然とした世界に、人間の原点を感じるからではないでしょうか。今の日本はなんでも奇麗で便利で気を使い過ぎていて、その平等で均一なシステムの中に返って自由が失われているように感じていて、東南アジアのセッカチで、ワガママで、ムセキニンで、オオラカで、チャランポランで、オキラクな人々の混沌とした暮らしから生み出される無秩序なエネルギーの中で、自分が開放された気持ちになれるからでしょうか。それは一見、不衛生で粗野なものでありながら、日本人があこがれ、どこかのヒキダシにしまってある人情味のある下町風情と、共通するものがベトナムの街角には確かにあります。ともすると、日本人はコンビニよりも３丁目の駄菓子屋を好みますが、残念ながら、その大半は一時的な感傷にすぎません。この雑把で混沌とした風情を感じるにはベトナムはまさにうってつけです。道に溢れるルール無用のバイク集団はその最たるものですが、それと同じぐらい街角で目立つものといえば、街中に張り巡らされたこの電線です。電柱から何十本の電線が無秩序に引かれ、絡まり、弛み、ニ、三本は切れて地上に垂れ下がっています。電柱ときたらもう余った電線がぐるぐる巻にされて無造作に重なりあい、もう電柱なのか新種の南国の街路樹なのか良くわかりません。歩道は注意してあるかないと手に触れたり頭に引っ掛けてしまいます。いったいどういう理由でこんなにグチャグチャになるのか正直理解に苦しみます。さいわい本物の電線は地下に埋まっているらしく、大半が電話線のようで身体に触れたからといって感電するものでもないようです。が、しかし、これでよく電話が通じるものだと感心してしまいます。イヤ、実際に携帯がつながらないことも多いですが。こうなる背景には、もちろん立ち行かないお金の事情もふんだんにあると思いますが、根底にはオオラカなベトナム人気質が伺えます。きょうび、バスタオルを毎日洗わないと悲鳴をあげる日本の若い女性が、こういう景色を見て本当にベトナムに好印象を持つのかはギモンです。案外、上から目線でストレスを解消しているのが人気の秘密なのかも。
これでも国が発展していること、周りに何いわれても気にしないことこそがベトナムの良さ、ベトナム人の達した境地であると思いますが、そんなベトナム魂に目をつけ、この混沌さを逆手にとってファッションにしたてるカシコイ輩がでてきました。電線グシャグシャの電柱をお洒落にモチーフにしたプリントTシャツです。ベトナムを離れるのにちょうどいいお土産だと店をのぞいてみましたが、なんと２０００円以上。普通の土産屋Tシャツの５～６倍の値段です。こうなると逆にベトナム魂をただの流行ファッションに売り渡したようで、なんだか興醒めし何も買わずに店をあとにしたのでした。今思うと自分が単にケチだっただけなのですが・・・。

（２０１４年　４月１２日）ハノイ大洪水

２００８年。その年は雨の多いベトナムで３７年以来という大水害の年でした。各地で大雨が続き大変な被害が発生したそうです。家屋や作物が流されるのはもちろん、残った食物も氾濫した汚水に漬かり赤痢やらチフスやらがまん延してしばらくは生野菜サラダ禁止令が出たほどでした。が、ベトナムのテレビ番組を見ないのでそんな深刻な状況だとは雨、いや露とは知らず、後になって日本人向けの通信誌で知ったのでした。ハノイではちょうど１０月３１日のこと、２日ほど前からほぼ休まず降り続いた雨で、夜、仕事から帰る頃にはそこら中が川のようになっていました。水に弱いベトナムの車はマフラーに水が入り込むと簡単にエンストします。会社の送迎車はバスなので、どんなに川のような水たまりでも、大きなタイヤで踏み越えてエンストになることはなく、浸水した街やエンストした車の光景にはしゃいでいたのですが、その途中、選択肢に迫られることになりました。１つはこのまま直接アパートへ帰るか、もう１つはレストランで食事をしてから帰るかです。送迎バスは乗っている人全員を希望したところで一人一人降ろしてくれますが、降りたら最後、再び戻ってくることはありません。そうなると、アパートまでの足は自分で探さないといけなくなりますが、大雨の日はエンストを恐れてタクシーはほとんど捕まらないことが予想されました。時間も遅く、アパートに帰ってもロクな食べ物もなさそうだし、いつものレストランならなんとかなるだろう、だめなら歩いて帰ればイイと軽い気持ちで、スタッフの忠告を振り切ってレストランで降りたのでした。食事の間に雨もようやく上がって、たまたま通りがかったタクシーを店の人に捕まえてもらってアパートへ向かいましたが、その帰り道は想像以上の浸水状況でした。普段どんなスコールにも没しなかった道が遥か彼方まで水をたたえ、今ドアをあけると確実に水が入ってくる水位の中、一度でも止まればエンスト確定のエンジンはうなりをあげて、浅いところを探るように迂回につぐ迂回です。泥なのか汚水なのかわからない色をした水は足をつけることもためらわれ、エンストしないことを一心に祈りつつ、運ちゃんを応援し続けました。幸い日本製のタクシーと腕のいい運ちゃんのおかげで、無事に氾濫したチュックバックのほとりのアパートまでたどり着くことができたが、着いたのはちょうど１２時を超えたあたりでした。その日を境に雨は落ち着き始め、その翌日の日曜日、洪水の状況を知るべく周辺を散策しました。１昨日よりは状況は落ち着いているとはいえ、水路や川は橋の下まで水位があがり、チュックバック湖も水面が岸ギリギリで今にも溢れだしそうです。湖面には溺れたドブネズミの屍骸がドッチボールのようにパンパンに膨れて浮かんでいました。その向かいのタイ湖はお寺や桟橋が完全に浸水。しかし、皆あきらめたのか、だれもショックを受けている様子はありません。それどころか、ほとりでは大勢のベトナム人が手製の釣り竿で釣りに興じています。こんな惨事があった後なのにベトナム人はどんだけ釣り好きななんだろうと驚きましたが、実は、タイ湖で養殖していた大量の魚が洪水の影響で逃げたらしく、それをちゃっかりいただくために集まっているのだそうです。

（２０１４年　３月２６日）街中の水牛

開発の進むハノイでは２００８年ぐらいになると高級住宅街や高層マンションも珍しくなくなってきて、都心には高級デパートが、郊外では一大ショッピングモールが人を集めるようになってきました。ちょうど伝統のある旧い街から、ビジネスの盛んなバブリーな大都市へ生まれ変わろうと街が、人が、もがいていた頃だったように思います。住宅という住宅は地価が高騰し、建築ラッシュで重機が入り乱れ、手付かずの空き地もオカネの臭いがプンプンしていましたが、そんなところに、放牧された水牛がのんびり草を食べに来ていて、そのキャップに思わずケッつまずいてしまいました。水牛は日本では動物園でもなかなか見ることはできず、それはもちろん極珍しいからではなく、極ありふれた価値の低い存在だからと思われます。ベトナムでは少し郊外にでると、すぐにのどかで質素な田園が続きますが、そんな中で水牛は田んぼの働き手として、ごく自然な風景として溶け込んでいます。全身が地味な灰色で、その名のとおり、日中は池や水路で鼻先だけ出して飽きもせず何時間でもドップリ漬かっています。郊外の農家には厩舎ではなく水たまりがあって、そこに水牛を無造作に放しているのでした。ベトナムの家畜は放牧がキホンらしく、都心ではさすがに牛は無理ですが、鶏なら街中でも飼っている人が多く、車道と家の間のコンクリの鋪道で、通行人をかき分けながらたくましく生きています。横でバイクがブンブン走っているなかで、家の前を親鶏がヒヨコをつれている姿をみると、よく放し飼いができるものだと感心してしまいます。自分の会社はちょうど街のハズレの川向こうの工業団地にあるので、放牧された水牛や普通の牛が、よく野草のほか街の捨てられたゴミをあさるため徘徊していました。工業団地の入口の守衛は、不審者よりも、牛が入ってくるのを主に取り締まっていたと思います。水牛はバッファローを思わせる横に広がったイカツイ角をもっていますが、性格は普通の牛と同じくいたっておとなしく、背中に白い鳥がワガモノ顔でとまってもシッポで追い払うことはしません。決して慌てず、（イヤ、本人はあせっているのかもしれませんが、）のんびりゆっくり道路を横断しますが、ベトナム人も牛に関してはおおらかで、クラクションで威嚇したり、行く手を邪魔することはしないのでした。
こんなに、ベトナムの生活に根付いている水牛は、ベトナムの伝統工芸品や無形文化財には決まってモチーフに選ばれるほどメジャーで、食文化でも地元のレストランの牛肉料理で腹を壊したといえば、それはまず水牛の肉であろうとウワサされます。そうしてみると、水牛と重機のいる風景に違和感を感じるのは、昔からいる水牛ではなく重機の方で、水牛にとっては迷惑な話なわけです。都市開発のため重機で土地を追われる水牛は、まさに近代文化と伝統文化の攻防を地でいっているといっていいのでした。

（２０１４年　３月２３日）ジョウホウ？

レストランで魚介類を水槽に入れて新鮮さをアピールする”生け簀”の演出は、日本だけのモノではありません。ベトナム人は魚介類が特に大好きで魚系のレストランにいくと大抵こういった水槽を並べて魚を入れています。といってもベトナムは冷蔵庫が高価で鮮魚の輸送システムが日本ほど整っておらず、生け簀はシンプルな長期保存手段なのかもしれません。酷暑の環境で、じっと何日も耐えている水槽の魚をみることができます。日本では生け簀といえば主に海魚系ですが、ベトナムでは海魚系と川魚系が半々といったところでしょうか。そんな水槽でおなじみの魚が、全身生皮を剥がされたように白くノッペリしていて、生気が抜けたようにボーとしているこの魚です。初めてみたときは、気味悪さしか感じませんでした。高級レストランや高級スーパーの水槽に大量に放り込まれているので結構ポピュラーな魚のようです。泳ぎ回ることなく、同じところで何日もジッと浮かんでいます。ずっと気になっていたところ、ようやく機会があって現地のベトナム人スタッフに聞いてみるとジョウホウ？という名前とのこと。しかし、所詮、異国間の会話の事、名前以外にたいした情報を聞き出すことはできませんでした。今となっては、魚の名前が本当にジョウホウなのかもあやしいところです。一応、川魚でおいしいらしいですが、ベトナム人は自国の料理をすべておいしいというので本当のところはわかりません。ベトナムの川魚として一番印象に残っている魚です。

（２０１３年　３月２日）ヤモリ

ヤモリといえばベトナムあるあるで欠かせないものの一つです。トカゲをふやかしたようなベ－ジュ色の肌をして、天井や窓ガラスにペッタリくっ付いて音もなく移動する姿に好意をもつ日本人はあまりいないでしょう。そうやって彼等は、外灯に集まる昆虫を食べに集まってきます。クーラーが普及していないローカルな店などは入り口や窓が全開なので、ふと見上げると天井にヤモリがワンサカくっ付いていて、ドン引きすることがよくあります。しかも、ときどき「ケッケッケッ」と鳴いたりして耳障りです。といって排除しようにも、やたらすばしっこくて、わずかな壁の隙間でも入り込んでしまい、まず捕まえることができません。そのため、なにかと建て付けの悪いベトナム住宅では、ヤモリと同居することはある程度は致し方ないことです。ベトナム人はそんなヤモリに関心がないのか、同じ室内で一緒にペッタリしているのでした。ベトナムは人間の次にたくさんいるヤモリ王国なのです。一度、風呂場の窓のカギをうっかり閉め忘れて隙間からデカイのが一匹入ってきたことがありました。体半分がまだ窓の外にあったので、何とかＵターンさせようと、ほうきやらバケツやらでおどかしましたが、逆に、あっという間に部屋の中に逃げ込まれ、冷蔵庫の裏で「ケッケッケ」と鳴いています。普段、部屋の中は冷房とゴキ対策で窓はピッチリ閉めているので、こうなるとお手上げで、もう無視するしかありません。幸い、臆病で警戒心が強いので、頭上にポタリとか、ベットの中に一足先に、といったニアミスはまずありません。ソファに寝っ転がっていると、視界の端にヤモリが現れて、抜き足差し足で天井を横切っていく姿はちょっと微笑ましかったりします。よく見るとクリクリしたツブラな瞳をしてかわいいかも。意外に賢いのは２～３日もすると勝手に自分で出口を探して出ていってしまうことです。エサとなる虫がいないので外に探しにいくのでしょう。実はヤモリは日本にもたくさんいて、こちらの方がけっこうグロい姿ですが、”家の守り主”で”家守”と書いて、昔から保護されてきたようです。名前の由来は、家の中の害虫を食べてくれるからだそうですが、きっとそれだけではなくて、こういった人間との絶妙な距離感に愛着を感じたからではないでしょうか。実際ベトナムでは年に２回ほど夜に外が虫だらけになる時があって、毎朝、外灯の回りは虫の屍骸で踏み場のない日が続きます。ヤモリ達も全ての外灯や窓に集まって毎晩お祭り騒ぎです。が、それで住宅が倒壊を免れるとか、農作物の被害がおさまるというほど活躍してくれるわけではありません。にもかかわらず、上はおサルから下はヘビ、果ては昆虫に至るまでなんでも食べるベトナム人でさえも、一つ屋根の下でペッタリと一緒に暮らせているのがその証拠です。
さて、一度は憎めないヤツと思っていたヤモリでしたが、戸棚や食器にくっ付いている米粒のような、黒くて先端に白くポッチのついた塊がヤモリの糞だということに気付いて、やっぱりドン引きしてしまったのでした。

（２０１３年　２月２２日）紅河（ホン河）とタンロン橋

ベトナムの川は大きくても小さくてもたいてい泥色に濁っています。どこまでも変わらない平地と田んぼと泥色の川はベトナム風情を感じる代表的な光景といっていいでしょう。通勤の途中にも紅河という川があります。千キロも先の中国の奥地から流れ込み、水に含まれる土砂には鉄分を多く含むらしく赤っぽく見えることが川の名前の由来だそうです。といっても川はもちろん泥色で、見る角度や太陽の位置によっては確かに泥色に赤味が増す程度です。紅河にかかるタンロン橋は渡り切るのに４～５分ぐらいかかるほど川幅は広く、まさに大陸の広大さ、東南アジアの一大穀倉地帯を彷佛とさせます。アジア好きの旅行者にとってはいい景色ですが、海外赴任者にとっては、仕事が始まる憂鬱な景色なので、たいていは朝の車の中で眠っていることがほとんどです。川となれば川岸にいってたわむれたい性分ですが、濁った川は魚も見えないので楽しくないし、あやしい場所でタクシー乗り捨ててまで散策する気力もなく、紅河はもっとも身近な風景で、最も遠い存在なのでした。
また、このタンロン橋はハノイ市街と国際空港を結ぶ主要な幹線道路にあたり、開発の進む市街へ重い資材を積んだ大型トラックもひっきりなしに通ることもあってか、何かとトラブルが多い橋です。まっすぐな橋にも関わらず、なぜか立ち往生や追突事故が多く、アスファルトもすぐに痛んで凹凸になり、半年に１度はどこかしら修復工事が行われています。そんなとき交通規制になってしまうと、早く通り抜けようとルールもマナーもヘッタクレもなく我先に押し寄せるので、橋の上は対向車線を巻き込んでひどい交通渋滞になります。またそれもベトナムの代表的な光景です。

（２０１２年　１１月２日）マリンボーイとおっとっと

ハノイのお菓子には、”Oｉｓｈｉ”という名前のお菓子メーカーがあったり、うさん臭いマイナーなお菓子にも変な日本語がプリントされて、日本製であるかのようにアピールしていて、日本ブランドが根付いているようです。といっても、ベトナムメーカーより品質が良く、日本メーカーより安い、韓国や中国のお菓子にほとんど牛耳られています。それにしてもチョコもクッキーもスナックも、見た目も味も日本と同じようなお菓子が多いこと。人気のある商品を真似てつくることはしかたがないように思えるし、日本のメーカーも拡販のためローカル会社と提携したりすることもあるだろうからなんともいえませんが。”コアラのマーチ”や”パイの実”はロッテなのでそのままでいいとして、”かっぱえびせん”にいたってはあまりにもポピュラーなのか、もうパクられてもしかたないといったほどいろいろな模倣品が出回っています。味はもちろんオリジナルが一番ですが。そんな中で、今、ハノイのメジャーなお菓子の仲間入りしようとしているのがこの”マリンボーイ”です。このマリンボーイは韓国のお菓子メーカーのようですが、パッケージのデザインは違うものの中身は日本の”おっとっと”とそっくり。とくに提携はしていないようですが、タコ、イカ、ヒトデ、カニと一つ一つのスナックの形まで同じで、逆にどうやってここまで似せれたのだろうと驚いてしまいました。お菓子業界もたいへんです。

（２０１２年　２月１２日）ジャパニーズＢＢＱ

ハノイではジャパニーズＢＢＱ（バーベキュー）が今大人気です。いわゆるテーブルを囲んで網の上で焼くヤキニクですが、適度にベトナムナイズされていて確かにＢＢＱといった方がシックリします。その特徴はビュッフェ式の食べ放題スタイル。食べ放題自体は少し前からベトナムレストランでも流行ったので、それほど珍しくはないのですが、珍しいのは、その肉の種類の豊富さ。牛、豚、鳥、魚、エビ、イカに加えヤギや貝、カエルなど、なんの肉かわからないものがズラリとテーブルに並べられています。それらを好きにとってきて、鉄板の上で豪快に焼きます。味付けはされていて、そこそこ食べることができます。そして何より驚くのは、ベトナム人の豪快な食べっぷり。そうしなければいけないかのように、自分達のテーブル上にはびっしりと取ってきた食材の小皿で埋めつくし、食べてるそばから、次から次へ新しい肉を持ってくるのでした。まさに肉のわんこそば状態。最初はそこそこ美味しいと思っていても、だんだんウンザリしてきます。そんな状態が２～３時間続き日本人はもう身体をおこすこともできなくなった頃、最後のシメに鍋の登場です。鉄板の中心に胴長の小鍋を置いて、新たに持ってきた肉や野菜をこれまた豪快に放り込みます。スープは韓国か中国あたりの味付けの様ですが、もう箸も動きません。このヤキニクと鍋が同時に楽しめてしまうという画期的な食べ方がジャパニーズＢＢＱのようです。
これをベトナム人は女性でも平気で平らげてしまいます。あれだけ食べて、ほとんど全員、身体はスリムでスタイルがいいことが最大の驚きなのでした。

（２０１１年　８月６日）ハノイの魔法

若い女性に大人気のベトナム。いまもってその理由は良くわかりません。が、現代女性もさすがに受け入れ難いと思われるベトナムの風習といえば”ゴミ捨て”でしょう。ふつうベトナムではゴミを床に捨てます。大衆食堂ならエビの頭や鶏の骨、果物の種はそのままテーブルの下に落とすのが一般的。市街地では家庭のゴミは家の前の側溝に捨てます。それも袋に詰められているとは限らず、一般ゴミでも残飯でもそのまま捨ててあったりして、まあ町中を気持ちよく歩けることはありません。人の往来が多い場所では、人やバイク、自転車を避けて歩くので、自然と側溝に引き寄せられて、うっかり生臭い水たまりに足を突っ込んでしまったり、おやつがわりの果物を皮やら種やら家の中から道端にぽんぽん投げ捨てているので、ヘタをすると”打ち水”ならぬ ”打ち残飯”をおみまいされたりします。したがって、街中はゴキブリやらネズミやらがたっぷりと潜伏できるポテンシャルがあります。そんなゴミ無法地帯のベトナムですが、かといって、通りがゴミで埋まってしまうことはなく、きれいとはいえないものの、それほど日本人女性に悪い印象をあたえることがありません。街中の人達が思い思いに捨てるゴミは１日と放置されることなく、半日もしたらさっぱりなくなっています。これはある意味魔法で、ベトナムに来た当初は不思議に思っていたことでした。
その魔法は街角に無造作にころがっている鉄製の大きな乳母車でした。それを緑のチョッキにヘルメットをかぶった人達が押しながら、昼となく夜となく町中のゴミを集めてまわっているのでした。側溝といわず街中のゴミや枯れ葉まで、ほうきをつかって丁寧に取り除き乳母車に回収します。複雑に入り組んだ路地でも、車の往来の多いところでも、あらゆる通りに出没しては大量のゴミを運びます。達人ともなると人の背丈の２倍以上のゴミを器用に乳母車に積み上げるので、うっかり感動することも。そしして集めたゴミは街の各地の一画に集められゴミ回収車が人知れず持っていくのでした。それにしても、あの人達はどういった素性の持ち主なのか、役所に勤めている役人なのか、アルバイトなのか、住人が当番制で働いているのでしょうか。人力なのでそれほど広い地区を担当してなさそうですが、同じ地区に１０人以上はいるようなので、ハノイ市街でも１０００人以上は余裕で働いていそうです。朝、昼、夜と回収するとなるとトータルで３０００人ぐらいいそうです。ベトナム全土で、その人達をどうやって確保しているのか、給料は誰が負担しているのか、なによりゴミに無頓着で、ズボラなベトナム人がこんなに丁寧に掃除をしているがとても不思議だと思うのでした。

（２００９年　３月２０日）ベトナムのイヌ語、ネコ語、ネズミ語（ベトナム語講座）

ベトナムの言葉はベトナム語が主流です。英語は観光名所や大学出身の人しか使われず、しかもアルファベットの発音がエー・ビー・シーではなくアー・ベー・セーなのでコミュニケーションに苦労します。しかし、これは世界から見れば母音の強い日本語の方が独特なので我々の方に問題があるのかもしれません。英語で話したつもりがベトナム人から日本語は分からないので英語で話してくれとよくいわれます（屈辱）。ベトナム語はこれに輪をかけて１１種類の母音とか、６種類の声調（音の高低）とかがあって、とてもマスターすることはできません。英語ができる日本人は多いでしょうが、ベトナム語ができる日本人は貴重なので、就職難のこの時代、きっと将来に役に立つことでしょう。
さて、ベトナムは昔、中国の影響を受けて漢字圏だったので、ベトナム語も漢字と同じ発音をするものが多くあります。注意することを「チュウイ」、結婚のことを「ケホン」といった具合です。こんなことは、辞書で調べたり、しばらくベトナムで生活していれば自然に身につくトリビアでしょうから、今回はまんをじして、まだ私しか気が着いていないだろう特別なベトナム語を紹介することにします。それはベトナム語の中には日本のイヌ、ネコ、ネズミが隠れていることです。日本語の標準述語は「～です」「～ます」ですが、そんな標準言葉だけを使って生活している日本人はまずいないことでしょう。「～だよ」とか「～ね」といった準標準語的なものから、「～じゃん」とか「～だべ」とか「～じゃけん」といった方言のように、語尾に様々な付属語が付き、微妙なニュアンスを表現します。ベトナム語もそういった言葉があって、代表的によく耳にするのは「～ニャ！」（ネコ語）です。仕事でも片言の日本語を話すベトナム人が、しばしばこの「～ニャ」を混ぜて、「調べましたニャ」とか「見ますニャ」と返してきます。このはからずも萌え萌えな言葉遣いはすぐにベトナム在日本人（男性）の心をとらえ、爆発的なヒットを飛ばし、皆かならず語尾に「～ニャッ！」をつけて会話するようになります。しかし、これは調子にのって使っていると、現地の女性から白い目でみられます。この「～ニャ」は日本語でいうところの女性が使う「～ね」と同じ意味だそうで、男が頻繁に使うものではないそうです。でもタクシーの運ちゃんをはじめ多くのベトナム男性からも結構聞くことができます。外国人が面白がって使うとバカにされているように思えるのでしょう。このネコ語は現地では良く知られているところですが、後のイヌ語は滅多に出てこないので気付いていない人が多いと思います。ベトナム人が夢中で話していると極たまに語尾に「～ワンっ」（イヌ語）が付くことがあります。実は意味は良く分かりません。というのも、その「～ワン」てどういう意味？と現地人に聞いてもニュアンス的なことをうまく（しかも日本語で）答えようもないので具体的に確認したことがありません。推定ですが、さしずめ「～でしょ」といったところでしょうか。さらにめずらしいのに「～チュウ！」（ネズミ語）が存在します。あてずっぽうで、おそらく「～なんだモン」といったところではないでしょうか。仕事中に、何？今の言葉と思うのですが、そんな話題をふるとベトナム人気質から直ぐに本スジから脱線してしまうので、あえて流していますがずっと気になっています。他に気が付いている日本人がいるでしょうか。
このように難解で馴染めないベトナム語も、意外なところで日本人を和ませてくれるのでした。

（２００９年　１月１１日）香寺

もう２年近く前のこと。ベトナム赴任して６ヶ月が経ち、生活のリズムができて日本食レストランのローテーションや日曜日の買い出しの食材が定着すると、他国で生きる過剰な緊張感もほぐれてきて、飽きるというか生活に物足りなさを感じてきました。何か変わったことをしたい、とはいってもメジャーな市内観光は以前のベトナム出張であらかた済ませていたし、一人で知らないところにでかける勇気もありません。他の同僚もさぞ味気ない毎日を送っていることだろうと思って聞いてみると、意外にも会社のベトナム人スタッフをガイドにマイナーな観光地を飛び回っているというので、その中のオススメというハノイから６５Km離れた香寺（フォーン寺）というところにいってみることにしました。当時、私の部は新しくできたばかりのベトナム人スタッフ合わせて６人程の小さな部署で、一緒に赴任してきた上司を誘うと、同じく退屈していたらしく話はすぐにまとまりました。香寺はテト正月（旧正月）が参拝のピークで参拝者とドロボウで溢れかえるというので、人の少ないテトの２週間前に行くことにしました。
　会社の同じ部署のベトナム人スタッフとはまだ十分コミュニケーションがとれないので、いきつけの日本食レストランの店員をいいくるめてガイド役に頼み、ホテルでタクシーを１日５０００円でチャーターしました。当日待っていたのはタクシーではなくホテルのオンボロミニバスでした。朝８時にホテルを出発。しばらく町中をすすむとやがて両側が広大な田んぼに囲まれた農道のような道を走り続けます。車がやっとすれ違うことのできる道は舗装が悪く、車は道の中央を走り、バイクは車を避けるため道の端においやられます。折しも朝霧で視界は真っ白で、時々霧の中に浮かび上がる対向車のヘッドライトと、ドライバーの巧みな運転と、オンボロバスのブレーキ甘さに、終始ビビリまくったのでした。霧も晴れて目的地に近づいてきたとき、ふいに通行止めに会い、数人の男に取り囲まれてしまいました。道の途中で香寺のチケットを買わされるという話を聞いていたので、ぼったくられないようにガイドさんにお願いしました。ところがガイドさんも困惑顔で交渉が難航している様子。そのうち男達がバスから降りろと騒ぎだしました。これはいよいよヤバくなってきたと車内は緊迫した空気が流れました。ガイドさんが降りて話をよく聞くとこの先は橋の工事でバイクしか通れないので、自分達のバイクタクシーに乗れといいます。バイクタクシーは危険なので会社で禁止されていましたが、真意を確かめるヒマもなく半ば強引にバイクにのせられてしまいました。工事中の橋を渡り、農村の路地をウネウネとぬけていきました。初めはヒヤヒヤでしたが、乗ってみると小道の風が心地よく普段見ることのない路地裏のローカルな生活が見れて少し得をした気分になったのでした。１０分もすると川の観光所らしい受付に到着しました。香寺はこのダイ川をボートで遡ったところにあるようです。ダイ川は他の川と同様、土色に濁っていて、流れはほとんどありません。チケットを買って川岸に降りると、４、５人乗りの小さなボートに女性の船頭さんが一人ついていました。ボートは鉄板を貼り合わせた簡素な造りで、木のオールが左右に結びつけられているだけです。船頭さんは何を説明するでもなく、ただ黙々とオールを漕ぎ、時々、独り言のように歌を歌うのでした。
水墨画のような山々に囲まれたこの川下りが香寺観光の目玉のようですが、絶景というほどでもありません。ただ、のどかな景色の中をゆっくり進むボートに、強制的にのんびりとした気持ちにさせられるのは、確かにここにしかない観光の目玉なのかもしれません。２時間も進むと川が澄んできて、ようやく香寺の麓に到着しました。香寺は更に山の奥にあるようです。広い参道を進み、中腹のお寺を参拝するとその脇を登山道のような小道が山の奥につづいています。舗装のない道は細く起伏に富んでいて、とても参拝客で賑わうように思えませんが、参道はテト正月の整備に追われているようでした。３０分おきぐらいに休憩や食事のできる茶屋があって、さすがに人気があることを伺わせます。その茶屋で上司が朝慌てて作ってくれたおにぎりとガイドさんの差し入れのソーセージの昼食をとりました。参拝客はまばらでしたが途絶えることもなく寂しさを感じることはありませんでした。道は山を２つ３つ越えて２時間ほど登ったところの小さな展望台で終わっていました。その後ろに見過ごしてしまいそうな、壁に囲われた小さな門がひっそりと建っていました。その門をくぐると下におりる階段と大きく口を明けた洞窟があり、これが香寺でした。寺といっても立派な建物がある訳でなく、巨大な鍾乳洞をそのまま祭ってあって、一番奥に神仏が質素に安置されているだけでした。由来のある鍾乳石を一通り見学し、挨拶程度に軽く手を合わせてお参りを済ませました。隣で熱心にお祈りをするガイドさん。他の人も祭壇に５分ぐらいは手を合わせます。ベトナム人のお参りは皆とても真剣です。気がつくとその横でベトナム人と同じく一心に手をあわせる上司の姿がありました。あまりに熱心なので、いったい何をお願いしたのか最後まで聞くことはできませんでした。
帰りは最新のロープウェーで山を降りると、船着き場でやっぱり同じ船頭さんが待ってました。帰りの船の中で、疲れたけど楽しい旅行だった、気分を入れ替えてこの新しい部署を盛り立てていこうと話し合ったのですが、その数日後、上司に突然の帰国命令が出て、テト正月を待たずに早々に引き上げてしまったのでした。あの時にお祈りしていたのはこのことだったのではないかと香寺の御利益に驚くとともに、あのとき自分も真面目にお願いごとをしておくべきだったと思ったのでした。その後、仕事も激化しマイナー旅行につきあってくれる人もなく、ベトナム唯一の旅の思い出となったのでした。

（２００８年１０月２６日）サムソンビーチ

ベトナムの海の興味は尽きませんが、ハノイは海から１００km程の内陸に位置していて、マイカーもなく、長距離交通の発達していないこの地では、気軽に足をのばすという訳にはいきません。言葉の通じない国の観光スポットでもない最寄りの海へつきあってくれる物好きな人も現れず、近くに住んでいながらずいぶん遠い海水魚の本場なのでした。そんな中ようやく海を訪れるチャンスができたのはベトナムに来て２年目の社員旅行でした。ハノイから車で４時間南下すると地元では有名なサムソンビーチという海岸があります。他に日帰りでも海水浴のできるところはありますが、社員の希望で少しでも綺麗な海を満喫したいと一泊二日になったようです。海水浴に泊まり掛けというのも、いかにもレジャーの少ないベトナムならではといったところですが、自分にとっては泊まりがけの旅行もこれがはじめてで願ってもない機会でした。
当日は、あいにくの小雨模様、バス１３台を連ねて昼の３時に出発。サムソンビーチまでは１５０Kmぐらいですが、路も悪いので到着は夜８時になるだろうとのこと。途中サービスエリアもなく、トイレがないので飲み過ぎは禁物です。とはいえここでは冷えたビールも日本のおつまみも貴重品なので車内では一同おとなしくしていました。車窓は山と田んぼと古いレンガの家が繰り返し続き、男のバスガイドの延々のおしゃべりで、居眠りを繰り返して疲れも溜まった夜７：００過ぎにようやくホテルに到着しました。９月のことで既に日は暮れ、ホテルの正面にひろがる真っ暗な一面。それが干潮でひっそりとしたサムソンビーチでした。その夜は慣れないベトナム食と中流ホテルに早々に寝てしまいました。
早朝、騒ぎ声で目が覚めました。ベトナム人は日の出とともに活動します。腫れぼったい目でベランダにでると、夜明けの薄暗い空にどんよりと雲が張り出し、そして同じぐらいどんよりとした海が横たわっていました。こちらもどんよりとベットにもどり一眠りすると今度は雨音で目が覚めました。明るくなった外は海の色もハッキリと泥色と分かりました。前日からの雨の影響のようです。ベトナム人は雨もお構い無しで海岸で騒いでいます。水着をもつ人もほとんどおらず男も女も普通の服のまま海に入っていました。下着が透けるのもお構い無しです。泳げる人はあまりいないようです。爽やかな朝の日射しと青い透き徹った海の中で戯れる南国の魚の写真をカメラに納めようという期待も虚しく、しばらく皆とゴロゴロとしていましたが、それでもすっかり日も登って小雨もぱらつく中、海に向かいました。ホテルの入り口は土産物の屋台の客引きでひしめいています。貝殻を使ったネックレス、置物、小物の他、ゴム製のヘビ、トカゲ、光線銃や水鉄砲といった平凡なおもちゃを屋台にいっぱいにぶら下げて、天秤の干物、生ものを手売りしている様子はうらぶれていて哀愁を誘います。それでも、それに群がってお土産を買い込んでいる社員達の姿は平和的でなにかホッとさせてくれるのでした。海岸に出ると、昨夜の干潮とは違い、波が強く打ち寄せていました。近くで見れば見る程海は濁っていてまるで”コーヒー牛乳”のようです。それは今までで一番濁った海水浴場に思われました。思いきって海に入ると、水は暖かく快適で荒い波の中海はどこまでも遠浅でしたが、どこまでも濁っており魚の影も形も見えないのでした。ホテルのタレ幕にある青い海のプリントだけが妙に浮き上がっていたのでした。

（２００８年１０月１２日）ベトナム建築（ベト建１）

むか～し、昔、”まんが日本昔話”に「ふるやのもり」という話がありました。古い民家に忍び込んだ泥棒とオオカミが住人の話から雨漏りを怪物と勘違いしてパニクる笑い話ですが、どういう訳か最後は、なぜ”お猿”のシッポは短くてお尻が赤くなったのか？というオチになっていました。話の本筋とは違うそのオチも？でしたが、住人はどうしてそんなに雨漏りが恐いのか子供心に良く分かりませんでした。
ベトナムは今住宅事情が花盛りです。ベトナムの一般的な住宅は日本と違い、木をほとんど使わず、細い鉄筋のコンクリートの柱にレンガを積み上げ漆喰を塗り固めてつくります。１軒１軒の幅は１０m程しかなく、その代わりに奥行きは広くなっています。庭はなく、隣どうし片寄せあって建っているので、細長い建物がニョキニョキとはえているといった印象です。しかし、その外観は実に様々で、同じものは一つもないといってもいいでしょう。建築様式は西洋の流れを組んでいるようで、出窓やベランダ、屋根、屋上のテラスといったところが実に多彩で凝っていて、日本より変化にとんでいるように思えます。ベトナム人には西洋建築の発想が定着しているのでしょうか、たいした建築道具も使わずにその器用さには感心させられます。日本に帰ったらああいうコジャレたテラスのある家を建ててみたいものだと思うのですが、やはり姉歯的にＮＧなのでしょうか。
さて、カンジンの中身といえば、見た目は良いのですが、ドアに隙間があったり、窓の立て付けが悪かったり、配管を通す壁の穴は綺麗に塞がれていなかったりと、細部の加工が雑で、また、新築であったとしても、家具を含め全ての部品が新品であることは少なく、クーラー、便器、流し台、ドアノブなど中古品をリサイクルしてつかっていることが多いようです。一番の問題といえば、”水まわり”が弱いことでしょうか。風呂の水ハケが悪かったり、お湯が１０分しか出なかったり。排水溝からの臭いが逆流したりなどなど。シャワーのない一般家庭も多い？そうなのでしかたのないことかもしれませんが。
極めつけは、ある日、夕方から押しつぶされそうな雨が降り続いた夜のこと、部屋の中で激しく水の叩く音が聞こえて飛び起きると、天井の照明から滝のように雨水がもれているのでした。しばらくバケツをフル動員して格闘し、ふと気がつけば、四方の壁や天井のいたるところから水が染みだしているのに気がついて慌てて貴重品を抱えました。今にも崩れそうな壁１枚を隔てて轟々と降る雨の中、はじめて「ふるやのもり」の恐さを身を持って実感したのでした。

（２００８年７月１5日）熱帯魚屋

家のすぐ近くには熱帯魚屋があります。
日中は殺人的な日射し、多くの人達がクーラーもなく夜は熱が籠る家を出て寝る直前まで道端で夕食を食べながら夕涼みが日課のベトナムにあっては、熱帯魚の趣味など皆無だろうと思っていましたが、意外にもベトナムで熱帯魚の飼育は人気があるようです。裕福そうな家や大きな店の店内などインテリアとしてはたいがい熱帯魚水槽が設置されています。クーラーのある部屋で飼える熱帯魚、海水魚の類いは富の象徴なのかもしれません。
今までに、ハノイで海水魚を扱っている熱帯魚店を３軒みつけましたが、近くにあるこの”アクアグリーン”もその一つ。３軒の中では最大の設置スペースで、扱っている海水魚やサンゴは豊富です。１階はレジと造りかけの水槽展示コーナーと海水魚、サンゴ、熱帯魚コーナー、２階は金魚、淡水魚、水草コーナーです。さすがにレイアウトは日本のいまどき最新の店とはいかず、昔ながらのゴチャゴチャした造りですが見ごたえはあります。海水魚も状態がよく元気で、体色も綺麗です。もともとベトナムは海水魚の産地なので当たり前かもしれませんが、いままで日本のショップでも見たことがなかった魚が水槽に無造作に放り込まれていると思わずおおっと唸ッてしまいます。月に１度ぐらいのペースで店を覗いていますが、魚もサンゴもよく入れ代わっているようです。いったいどんな連中が買いにくるのか興味がありますが、店員がぴったりと貼り付いてくるので、なかなか長居ができません。気まずいので店内も撮影できず外からの写真だけです。夜は外に面した水槽がライトアップするところなどは地元の雰囲気に不釣り合いで、実は欧米の息がかかっている店なのかも。いつか店員と仲良くなって店内を紹介したいと思います。

（２００８年７月５日）枯れない花

会社の花壇の縁取りに紫色の小さな花が咲いています。縁取りにつかわれているぐらいなので背の低い地味な草花ですが緑に映える可憐な花を健気に咲かせています。ベトナムに来てからほぼ毎朝その横を通って一年以上経ちますが、実はこの花、枯れたことろを見たことがありません。実際には少しずつ生え替わっているのかもしれませんが、花の色があせることはあっても葉っぱだけになることはありません。草木のことには詳しくありませんが一年中咲いている花は珍しいのではないでしょうか。これも温暖なベトナムのなせる技なのか。初めは造花かと思いましたが、その花に負けないぐらい小さなシジミ蝶が蜜をすいにたくさん飛び回っていました。その蝶も１ヶ月ぐらいも経つと見えなくなってしまいます。それでも花は枯れることなく、実をつけるでもなく、誰を待つともなく咲き続けているのでした。

（２００８年６月８日）ライギョ料理

ハノイにはイヌ、ヤギ、ヘビなど数々のゲテ・・・名物料理があります。ライギョ料理もその一つ。旧市街の市場に行くと金タライに無造作に放り込まれて売られています。ライギョ（雷魚）は日本の池や沼にも住んでいる大型の肉食淡水魚ですが、たしか昔は寄生虫がいて食べられないとか云わていたと思いました。そういえば、同じ理由でブラックバスも釣りではキャッチ＆リリースが専門でしたが、今では生態系の保護と町おこしを兼ねて、ブラックバスづくし料理をだす地方もでできているようですから、そのあたりは意外といい加減なのかもしれません。このライギョ、日本では古参の外来魚のわりに、悪名高いブラックバスほど日本の生態系を破壊する害魚として嫌われてはいないようですが、その容姿は女子供はもとより、釣り人からでさえ嫌われることがあります。それは、その独特の風貌とまだら模様がヘビを連想させるからのなのでしょう。
ライギョは別名チョウセンナマズとかタイワンドジョウとかいわれていますが、ここベトナムも原産地の一つだそうです。ハノイ周辺の湖畔には専門の料理店がたくさん軒をつらねているとか。その中でも旧市街に、通りの名前にもなっている有名なライギョ料理店があります。普段は現地めしはスルーですが、出張でベトナムにきた人のリクエストで、その店を案内するハメになりました。案内人の勤めを立派に果たすため、ガイドブック片手にタクシーを降りると想像以上のドローカルさに絶句。そこは、何もかも古ぼけて縮んでしまったかのような小さな店内に、統一感のない長テーブルと丸イスが押し込まれ、他人どおしが肩や背中を擦り寄せながら箸をつついている、清潔感ゼロ、サービス精神のカケラもないといった風な大衆食堂でした。完全に腰退け状態でしたが、しかし案内人として引くに引けず、翌日の体調を憂いつつ店内に。片言の英語とボディーランゲージでどうやってマトモな料理を注文しようかと悩んでいると、全てお見通しといった感じで何も聴かず料理が運ばれてきました。それは七輪の上に小さなフライパンがのっていて、薄くひいたオリーブオイル？にサイコロ状の白いライギョの肉がジュウジュウしているやつでした。そこへ皿に山盛りの野菜を好みで入れて焼き、焼き上がったところを茹でた麺の上に載せ、魚醤やピーナッツをかけて食べるのだと料理を運んで来た肝っ玉かあさんが手ぶりで教えてくれました。恐る恐る口に入れると、表面がカラッとあがったライギョの肉もしんなりした葉っぱ（野菜）もクセがなく、”食えそう”から”案外うまい”に変わっていったのでした。そうして最初の緊張感も徐々にほぐれてきて、周りに目をやる余裕ができると西洋人もチラホラ来ていることに気がつきました。自分達以上に不釣り合いな連中がいることで、品のない大衆食堂が、気取らない老舗レストランに見えてきました。ふと無造作に壁に貼られた雑誌の切り抜きが目にとまりました。それは、なんと日本語で、創業１００年、日本どころか世界中のガイドブックにのっているハノイ屈指の名店であることを知ったのでした。

（２００８年５月２４日）チュックバック湖

私の住んでいるローカルアパートの前にチュックバック湖という一周２Kmほどの小さな湖があります。ハノイ市街にはこういった大小たくさんの湖があり、建物のひしめき合う間に突然ぽっかりと湖が現れるので、入り組んだ町並みがますます入り組んで見えてしまいます。日本なら、こんな一等地にある小さな湖なんぞはとっくに埋め立てられ、道路か高級マンションと化すのですが、ベトナムの人達は生活の一部として湖をとても？大切にしているようです。それは単に、湖のほとりにベンチや花壇を設け、遊歩道を敷いて憩いの場とするだけでなく、時にゴミ捨て場、時にトイレ、時に洗濯場（！）として、ベトナム人の生活により密着していると云っていいでしょう。従って、湖は間違っても落っこちたくない雰囲気の水でたたえられています。それでも、ゴミゴミした街角とバイクの群れよりホッとできるのは水のもつ不思議な力なのでしょうか？　さて、このベトナム人の様々な思いを吸収し続けているチュックバック湖は、富栄養化が進んでいるにもかかわらず、物凄い数の魚が生息しています。それはもう、魚が群れで泳ぎまわっているというレベルでなく、泳ぎまわるスペースもないほど魚であふれかえっていると云った方がいいでしょう。雨でもないのに、よく水面が見渡す限りギザギザささくれて見えることがありますが、それは魚達が酸素を求めて水面でいっせいに口をパクパクさせているからで、文字どおりギョっとする光景なのでした。その魚、名前は分かりませんがフナかコイの仲間らしく、いかにもアジア大陸の魚といったかわいくない顔をしています。たくさんいる割に意外に警戒心が強く近づいて水面に人の影が映るとあっという間にいなくなってしまいます。
アオコが発生し全滅するどころか、逆にそれらを糧として爆発的に繁殖するとはさすがはベトナムの魚！と、ひとり感心していると、その隣で棒っきれに釣り糸をつけている子供、タモ網を担いでいるおばさん、さらには小舟にのって投網をするにいちゃん達まで現れるではありませんか。そう、どうやら彼等はこの魚を自分達の糧にしているようなのです。ヤケに魚の警戒心が強いのはそのせいなのでしょう。自分達の様々な欲望で湖を富栄養化させ、それを利用して増殖する魚を、今度は自分達の糧として更に利用する。やはり、この地にベトナム人以上にたくましいものは存在しないと確信するのでした。

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