沖縄４回目

ノイバイ空港の残念な日本食もこれが最後か・・・。

２０１２年８月の最終日。９月末で日本への帰国が決まってはいるものの配属先は未だ決まらず、工場閉鎖の仕事の進捗は予想どおり難航し、本当に帰れるのか、この時点でも余談を許さなかった状況の中、ベトナム最後の旅行に出発しました。
ニャチャン、ダナンでサンゴの海を体験し、ベトナムの旅に関しては、ほぼ思い残すことはありませんでしたが、ベトナム在住に関しては、たった一つやり残したことがありました。それはベトナムに在住している日本人がベトナム－日本間の国際線で利用できるという国内線無料特典。つまり、ベトナムから成田や関西国際空港に着いてから、その先の国内移動の飛行機代がタダになるということ。今までその噂は耳にしていたものの、いつもチケットを手配してくれるスタッフも首をかしげることなので、自分の中ではすっかり都市伝説となっていましたが、ここにきて、ベトナムに日の浅い同僚のどん欲なお得情報の収集能力から、その具体的な入手方法をふと耳にすることができたのでした。これまでベトナムから沖縄へは２回旅立ちましたが、無料特典の入手方法がわからず、また、長期連休のシーズン中ということもあって、得るものより、失うものが恐ろしく多い旅となっていました。もっと早くしっておけば・・・が、時すでに遅し。最後の帰国の時に休みをとって無料特典を利用することも考えましたが、引っ越し荷物の手続きや、帰任の手続き、受入先の職場の目もあるので、さすがに断念。しかたがない今回はあきらめて、帰国後また連休シーズンの正規の超割り増し料金で沖縄にいくしかない、そう思っていました。ところがベトナム最後の３連休である独立記念日が近づいてくるごとに、気持ちが揺らぎはじめました。沖縄の旅で魚に会いにいくのなら夏がベストであることは、これまでの３回の旅で感じています。そうなると、次にいけるのは１年後。しかも飛行機ばかりでなくホテルも気の遠くなるような割り増し料金で、しかも家族連れでゴッタガエです。それだったら夏休みの終った少し落ち着いた頃合で、飛行機代はトントンで、ホテル代は標準ぐらいでいった方が遥かにイイのでは。それがいけるのは、いつだろう？「今だけデショでしょ！！」と、いうことで、まるで操られているかのようにチケットを手配したのでした。
深夜のノイバイ空港を立ち、朝に成田。そこからバスで羽田に移動。空港は人もまばらでレジャー感もビジネス感もない中途半端な空気が流れていました。早朝日本に着いたはずなのに、つながり悪く那覇空港の近くでレンタカーを借りた頃には、すでに２時を回っていました。

　　
那覇空港の水槽のレベルも、ちょっと復活？　　　　　　　空港から雨がついて、クル～。　　　　　　　　　　　　３ネンぶりのなつかしい景色。　　

４度目、３年ぶりの沖縄本土は空港も街も全体にちょっぴりリニューアルされていました。それは、巨大アウトレットモールや一大免税ブランドショップ街といったお祭り騒ぎの流行が影をひそめ、一皮向けて落ち着きを取り戻した沖縄の姿に見えました。
ちょうど、空港に降り立つと同時に、空港の上空にぽっかり出現した小さな黒雲が、レンタカーを借りて、いざ出発しようとする間にだんだんと大きくなり、そいつが読谷まで追いかけてきて、ときどき追いついてきては、激しい雨をフロントガラスに打ちつけてきます。振り切ろうにも、車がヤケに渋滞していて信号に捕まってばかり。寄り道もせず１時間ぐらいでつくと思っていたら、たっぷり２時以上かかって、ホテルにたどり着いたのでした。荷物をおいて、すぐさま海岸へ出てみると、あいにく潮が満ちて、懐かしい干潟は海の下。その上、今しがた振り切ってきた黒雲がまた追いついてきて、辺りを薄暗く、日暮れの時間を進めてしまい、ホテルにひきかえす頃には、頭も服もビショ濡れになっていました。そのままカウンターでタオルを借りながら翌日の体験ダイビングの予約をしたのでした。

　　
　ホテルの目の前に浮かぶレジャーイカダ。　　　　　　　ハシゴで下へ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　サンゴ畑じゃないのは想定内です。　　

翌朝は快晴で、朝から仕度をしてビーチへ向いました。あいにくクマノミ城体験ダイビングは予約をとれず、朝一のシートレックに参加することに。参加者は３名。浜辺でごく簡単な説明を受け、靴や手袋などの道具合わせをします。以前のダイビングで寒さに耐えられなかった体験から一人だけウエットスーツを借り、岸から３００mほどの浮島へボートで渡りました。シートレックとは要は大きな金魚鉢みたいなヘルメットを頭からズッポリかぶって海底を歩いてまわるというもの。金魚鉢にはホースで常に新鮮な空気が送られてくるので、ダイビングやシュノーケルと違い、呼吸のニガテな人には安心です。浮島からハシゴを伝って降り、水深は５～６mほど。スタッフさんが付き添って降ろすので一人ずつです。もちろん一番乗りを希望しました。その方が長く海にもぐっていられます。まず肩まで水に漬かり、スタッフさんからヘルメットをかぶせられます。ヘルメットは体が浮くのを防ぐためオモリにもなっていて、水中でないとかなり重いようです。それからハシゴを一段一段おりて水に慣らしていきます。ぜんぜん余裕だと思っていましたが、一段おりるたびに、どういうわけやらどんどん不安な気分になります。呼吸は普通にできているハズなのに体験ダイビングの時に感じたのと同じ息苦しさです。１mも降りると水圧で耳が痛くなり、心細くなって思わず一段登って息を整えました。どうやらこの息苦しさは、水圧で肺が押し縮められることが原因のようです。

　　
エサ、イヤ、こわいんですけど・・・　　　　　　　　　　はいっ、チーズって・・・おい。　　　　　ハタゴもニモも大きすぎ！！

ちょっとアタフタしたものの、呼吸にもなれて、スタッフさんが残りのお客にかまっている間に一足先に海底を見物。海の中は青白くぼんやりしていていますが、まあ透明度としてはいつも通りでしょう。足下は岩肌で起伏のない平らな海底が広がっている殺風景な景色です。そこに鉄製の手すりが遊歩道のようにはり巡らしてあって、その横にワンポイントのように大きな岩がポツンと横たわっていました。ガラスのヘルメットは意外に視界が狭く、真正面で見ないと画像が歪んでよく見えません。スタッフさんが一人シートレックの案内をつとめ、ダイバーが護衛役に。なんだか恐縮します。まわりはエサを目当てに大きなロクセンスズメダイやオヤビッチャ、ミツボシクロスズメダイがたむろしています。おなじみの魚なので、ちょっと新鮮味に欠けます。お約束の餌付けタイムでは、ものすごい勢いで魚肉ソーセージに食らいつき”覇王色の覇気”により身動きもできないまま餌を奪われてしまいました。次は網カゴをもっていきたいと思います。あの大きな岩の側面には直径１mもある巨大なハタゴイソギンチャクがいて、手の平もありそうな立派なカクレクマノミが共生していました。なかなかいい演出です。ちょっと物足りないので、このまま近くのコンビニまで歩いていきたかったのですが、残念ながらタイムアップ。あっという間の時間でしたが仕事を忘れ、いい気分転換ができました。

なんだかとても久しぶりの干潟。

朝一のシートレッキングで気分もほぐれ、テンションもアゲアゲ状態で岸にもどってくると、目の前はちょうど潮も引いてきていて、いつもの残波らしいのいい感じの干潟ができています。まだ一日が始まったばかりで海岸を散歩する周囲の目も気にならずに、そのまま干潟の前に広がる誰もいない海にくり出しました。朝の冷たい水もすっかり慣れたのでむしろ快適でした。

　　
色がオドロオドロしいムラサメモンガラ　　　　　　　　こんな浅瀬にハタゴイソギンチャクが。　　　　　　　　　可愛いのが入居済み。もって帰りたい。

　　
サザナッミヤッコの幼魚。鮮やかな青線は蛍光色。　　　スミツキトノサマダイ。黄色はテンション上がります。　暗がり大好きナミチョウチョウウオ。

　　
ツノダシも普通にいます。　　　　　　　　　　　　　　コバルト、テンジクダイ、ベラも乱舞。　　　　　　　　なぜかこちらの足下を気にしているようす。

やっぱり夏で正解でした。干潟の浅瀬は色彩豊かな魚達の活気に満ちていました。過去、残波には夏１回、春２回きましたが、今回は、初めて来た夏以来の感動を与えてくれたように思います。腰ぐらいの深さなのに、さっきのシートレックはもちろん、ニャチャンやダナンの比べものにならないほど、間近でいろいろな種類の魚に出会えました。沖縄が日本にあってよかったとつくづく思います。
水中メガネはコンタクトに海水が入らないように競泳用のメガネタイプを使っていますが、これは遠くのモノが近く、近くのモノが遠く感じるので、魚を見るにはいいですが、距離感がつかめないのが難点です。下を見ながら歩いていると深みにハマったと勘違いして慌てて足をツッてしまい、溺れそうになって気付くと腰の深さだったり、遠くに見える小岩まで思いきって泳いでいくとあっという間に近づいて激突しそうになったり、見るままに進んで気が着くととんでもなく沖の方まで来てしまうことも。また、足が地につかないと身体が波にもてあそばれ、魚にピントをあわせることもできません。幸い残波の海はどこまで進んでも、胸より深くなることはなく、魚のポイントはいたるところにありました。

　　
掌ほどの枝サンゴ。大きくなってほしい。　　　　　　　桃色のきれいなサンゴも。　　　　　　　　　　　　　　浅瀬で良くみられるサンゴは巨大で完璧な姿。

そして今回、特に気が着いたのはサンゴが多く目についたことでした。以前はサンゴといってもバラバラの残骸か、波に削り取られたような半壊したものばかりでしたが、今回は腰の深さの浅瀬に完全な状態のサンゴをポツンポツンとですが、いくつもみることができました。サンゴの先端が蛍光色に妖しく光るのもあってイキイキとしているようです。水のハンパなくきれいな環境でないと生きられないミドリイシも、小っちゃいですが野生で育ってきているようで、とかく海の環境については暗い話題の多い沖縄ですが、何かあたらしい息吹を感じたように思えました。この赤ちゃんサンゴ達が今後大きく成長し、いつかあのニャチャンに広がっていた大サンゴ畑になってくれる日がくるでしょうか。これで、また残波を訪れる理由ができました。

　
ケヤリムシ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　イバラカンザシ。

　
オグロトラギス。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ケブカガニ。クモヒトデの足でランチです。

次から次とベストショットに息をつくヒマもなく、水中カメラのレンズは開きっぱなしで何枚とったか検討もつきません。時計は午後１時を回り、カメラばかりか、こちらのバッテリーもそろそろ残り少なくなってきました。ちょうど自分の下だけ、雲がほどよく太陽を遮ってくれていましたが、背中に浴びた紫外線もそろそろ許容値を超えてきています。それでも目の前の１m、２m先に、また新たな出会いや発見があって飽きることがなく、探究心は尽きることがありません。まだまだすごいものを見せてくれそうな予感を振り切って、後ろ髪を引かれる思いで一旦、昼食に戻りました。

雨の境目がくっきりと。

昼食のあと気分一新。場所を変えて再び海へ。ところが、沖に浮かんでいた入道雲の一つがカミナリを海に落としながら近づいてきて、空は一転、スコールです。昨日もそうでしたが”天空の城”みたいな雨雲が単独で流れてくるので、こっちだけ雨で、向こうの空は晴れというのが夏の沖縄の天気事情のようです。カミナリのアナウンスで海水浴客もバラバラと引き上げました。こちらも、先ほどのバッテリー切れと薄暗い天候に気分も盛り上がらず、そのまま撤退しました。すでに十分な収穫に満足でした。今日午前中だけで出会った魚は名前が判っただけでも、ミヤコキセンスズメダイ、ミツボシクロスズメダイ、ロクセンスズメダイ、オヤビチャ、コバルトスズメダイ、ネッタイスズメダイ、サザナミヤッコ、ツノダシ、トゲチョウチョウウオ、フウライチョウチョウウオ、ナミチョウチョウウオ、スミツキトノサマダイ、クマノミ、カクレクマノミ、ホンソメワケベラ、オキナメジナ、ムラサメモンガラ、ハナアイゴ、オグロトラギス、ヤマブキベラ、トカラベラ、それとケヤリムシ、イバラカンザシ、ハタゴイソギンチャク、ケブカガニ、クモヒトデ、シャコガイ、それからいろいろなサンゴ達等等等。これだけの生き物を、血眼になって探しまわることもなく簡単に出会えることができました。本島でも豊かな沖縄の海に見直すことしきりでした。

　　やっと訪ねてこれた”さんご畑”。　　　　　　　　　　露天プールでこんなにもサンゴが生茂るとは。　　　　　この先に我が”えび部さんご”が育っているハズ。

スコールが上がった頃にはもう３時過ぎ、車に乗って５分、今回もう一つの目玉”さんご畑”へ。今ではすっかり全国区になってしまった”陸上のサンゴ礁 ”も前回の訪問ではまだ出来上がっておらず、強い縁を感じながらもなんの痕跡ものこせず悔しい思いをしましたが、やっと念願がかないました。さんご畑は、海と塩の体感スペース”ＧＡＬＡ青い海”の一画にあります。昔あった”海の種”の小さな事務所はなくなっており、サービスカウンターでさんご畑の入場券を売っているのみ。チケットを買って目の前に広がる美しい青い海へ崖を降りていくと、白い有機テキな建物が世界初のサンゴの養殖場”さんご畑”です。一見こじんまりとした水産試験場といった趣で、ボランティアらしき人が簡単に園内を説明してくれました。ただサンゴの養殖だけをマニアックに紹介しているのかと思ったら、大小様々な水槽にいろいろな魚やサンゴが展示され、サンゴだけで退屈しそうなオトナにも飽きがこないよう工夫されていました。維持が大変そうです。大きなプールには盆栽のようないろいろなサンゴがびっしり。上からだけでなくプールの側面からも眺めることができてこだわりが感じられます。養殖の装置やシステムはとてもシンプルに思えるのに、こんなにたくさんのサンゴが維持できているとは驚きです。ここのサンゴは目の前の海に移植される他、毎年プール内でサンゴの産卵が見られるそうで、卵はそのまま海へ放流されているようです。思うに午前中に海で出会ったたくさんの魚やサンゴ達は、この４度の訪問の中でもピカイチでしたが、それはこの”さんご畑”の成果なのかもしれません。人はまばらで、ゆっくり時間をかけて園内をまわりました。さんご畑の外に出ると、えび部屋が昔ボランティアで寄贈したサンゴがすぐそこの海に移植されているハズです。記憶にある砲台跡のような防波堤の先にいこうとしたところで、また大粒のスコールとカミナリに阻まれました。

　
アクロバチックな太鼓サバキ。　　　　　　　　　　　　暮れてほしくない夕日。

夕方ホテルにもどってくると人集りができていて、エキゾチックな衣装をまとった男性陣が派手に太鼓を鳴らし、それにあわせて浴衣姿の女性陣が扇をつかって踊っていました。沖縄文化と日本文化の融合といった感じで、地元の青年団が村を踊って練り歩く”エイサ－まつり”という行事だそうで、聞けば９月頭は沖縄にとってはお盆にあたるらしく、エイサー祭りはさしずめ盆踊りといったところでしょうか。この時期はみな地元にもどって先祖を供養するらしく、昨日やたら交通渋滞で車が進まなかった理由がわかりました。
夜はホテルの売店でベトナムスタッフにお土産漁り。そういえば、ここに初めて来たきっかけは最初のベトナム赴任でした。あの時は離れる日本に思いをめぐらせて、今は離れるベトナムに思いをよせて買い物をしています。これも何かの縁なのか、それとも踊らされているだけなのか、すこし複雑な気持ちで切なくなった最後の夜でした。
翌日はベトナムへ出発です。朝、最後にもう一度、海を見にいきました。潮が満ちて満面に水をたたえている干潟は波が荒々しく、昨日とは打って変わって、人を寄せつけないかのよう。次はいつくることができることでしょう。明日から始まる目のまわる１ヶ月に寒気を感じながら２泊３日のベトナム最後の旅を締めくくったのでした。

おわり